作品リスト・解説


①美しい「線」のはじまり

作家名:小林ドンゲ(1926~)
作品名:《落葉》1953年
技 法:エングレーヴィング、エッチング、アクアチント、手彩色

小林ドンゲは戦後日本で活躍した銅版画家である。小林は女子美術大学を中退後、1953-1954年頃まで関野準一郎らに銅版画を教わった。この「落葉」は小林が銅版画を始めて間もない頃の作品である。小林は以後、銅版に直接彫刻刀で絵柄を刻むエングレーヴィングという古典的な銅版画の技法を多用するようになる。


②“白と黒”こそ究極の色彩表現

作家名:丹阿弥丹波子(1927~)
作品名:《花 ‘78》1978年
技 法:メゾチント

花瓶に生けられた花が描かれたシンプルな構成の小さな作品だが、細部まで描き込まれた現実感と、あり得ない量の花が生けられた非現実感が同居しており、じっくり観察したくなる魅力がある。作者が追究した、白と黒の濃淡だけによるメゾチント特有の色彩表現が遺憾なく発揮され、モノクロの作品にも不思議と色が感じられる。


③脳内記憶の混沌カオスを映す

作家名:星野美智子(1934~)
作品名:《フネスの鏡Ⅰ》1976年
技 法:リトグラフ

星野は、ボルヘスの短編「記憶の人、フネス」に着想を得て創作した。故人として語られるフネスは、正確無比の記憶を持ち、オールの描いた川の波紋、ある日の夜明けの雲の形までも再現できたという。「世界が始まって以来、あらゆる人間が持ったものをはるかに超える記憶」を持ったフネスの「すし詰めの世界」が、絵には見える。


④ハレルヤ、生い茂る大樹

作家名:松原直子(1937~)
作品名:《ハレルヤ》1964年
技 法:木版

「私のleitmotifは木であり続けている」と述べているように、作者は木を創作の主要テーマの一つに据えている。どっしりと太い幹と画面を緻密に埋め尽くす多様な花や実が樹木の持つ美しくも強い生命力を想起させ、下絵を描かず版木に直接イメージを彫り込む独自の手法が作品全体にダイナミックでのびのびとした印象を与えている。


⑤野中ユリ~浮かび上がる左手~

作家名:野中ユリ(1938~)
作品名:《二つの部屋Ⅱ》1974年
技 法:凸版、コラージュ

1974年に野中ユリが制作したこの銅版画は、素材や性質が異なるものを組み合わせるコラージュという技法が用いられており、そのような技法も相まって中央に配置された左手は違和感として浮かび上がる。実際には「二つの部屋Ⅰ」という作品も同様の技法を用いた作品として存在し、それぞれを比較して鑑賞することができる。


⑥やっと咲いて 白い花だった

作家名:合田佐和子(1940~2016)
作品名:《ダニエル・ダリュー1》(銅版画集「銀幕」より)1985年
技 法:エッチング

本作品は、合田佐和子のオリジナル銅版画集「銀幕」に収められた一葉であり、フランスの女優ダニエル・ダリューが描かれている。本作品に添えられた種田山頭火の句「やっと咲いて 白い花だった」とは、第二次世界大戦におけるダニエル・ダリューの苦悩と、その後の彼女の幅広く長期にわたる活躍を表現したものだろうか。


⑦黒に浮かぶ幾何学造形

作家名:二村裕子(1943~)
作品名:《Zone '76-12-1》1976年
技 法:スクリーンプリント

本作品は「Zone」シリーズの一つ。幾何学的な平面の存在感を強める黒い空間が印象的。二村いわく、黒は作品における表現の方法として選び取られたものに留まらない。また、一見無造作に配置された中央のモチーフは鑑賞者に多様な解釈の余地を与える。このような作風は長期間の試行錯誤を経て作り出されたものである。


⑧偶然の連鎖に見る無意識へ入り口

作家名:秋岡美帆(1952~2018)
作品名:《See(The series of ivy)》1986年
技 法:オフセット・リトグラフ

明確な形、色合いが排除された幻想的な光景、これこそが周辺視のヴィジョンを探究した秋岡美帆の真骨頂である。この作品は蔦の葉の色、形体そして動きに興味を持って制作された“ivy series”の1つであり、蔦の葉の形状は見る影もなく揺らいでいるが、それゆえに焦点を探ろうとする鑑賞者の興味を誘う作品となっている。


⑨旅の裏にあるものは

作家名:山本容子(1952~)
作品名:《Stone Step》(ポートフォリオ「ドラキュラ」より)1986年
技 法:ソフトグランド・エッチング

山本容子(1952~)によって制作された作品で、<DOLACULA>シリーズ(全6作品)の4作目である。山本がドラキュラ伝説のあるルーマニアに美術評論家の中原佑介とともに旅行した後、制作した。山本は、旅先で得たモチーフを作品で表現することを理想的な形だと語っており、旅は作品制作に欠かせないものだったのだろう。

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