【作家解説】秋岡美帆


秋岡美帆(19522018)

【略歴】

1952年 兵庫県神戸市に生まれる

1979年 大阪教育大学大学院教育学研究科美術教育専攻修了

1980年 第3回世界版画コンペティション展特別買上賞

1981年 第1回西武美術館版画大賞展優秀賞

1993年 第2回高知国際版画トリエンナーレ佳作賞

2008年 没

 

【作家解説】

 秋岡美帆は1979年大阪教育大学大学院に提出した修士論文で、「見ることの再確認」をテーマとして選んだ。この手掛かりとなったのは「周辺視」の概念であり、これは物を、焦点を合わせてはっきりと見る「中心視」に対して、その周辺をぼやけた状態を指すものである。大学院2年生のとき、山吹の花を眺めていた秋岡はしっかりと見ようと近づくと、花の前の金網はぼやけて視界から消えて花がはっきり見えるようになり、逆に金網そのものに目を向けると花がぼやけて見えるという体験をしたと語っており、こうした経験が制作に生かされているようである。中心視、周辺視とはオーストリアのアントン・エーレンツヴァイング(190666)が理論的に究明した概念である。彼によれば、中心視は狭いレンズを通した意識の類似物であり、一方周辺視は拡散していて、はっきりしない前意識、若しくはその類似物であるという。つまり、周辺的ヴィジョン、即ち形体と無形体の中間の揺らぎを探求する秋岡の作品は、無意識を知覚することを意図したものであるということが出来るだろう。

 秋岡美帆の版画作品はスローシャッター、アウトフォーカス、多重露光、流し撮りなどで撮影された写真をもとに作成される。このように撮影された写真はもちろん焦点の合わない、所謂ピンボケ写真である。秋岡はこれらを更にNECONew Enlarging Color Operationによって麻紙にプリントするという過程を経て作品を完成させる。NECOとは、原稿となるポジフィルムをスキャナーに読み込み、色の電気信号に変換し、ドラムへセットした支持体に、本のエアブラシからシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの水性インクを吹きつけるという仕組みの、広告写真などに用いられる印刷機である。空気圧や絵具の濃度等の状態によって、支持体に吹きつけられた点の集積として成立する画像には不確定な偶然の要素が必ず残ることとなるが、秋岡はノズルと支持体の距離を最大限離すことによって偶然性を更に高めている。つまり、秋岡の作品は、「自然のもたらす偶然」、「撮影の際の偶然」、「電子メディアによる偶然」という3つの偶然の連鎖によって制作されるのである。

参考文献

中日新聞 三重版 200278
三重県立美術館HP https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/art-museum/55086038160.htm
『版画芸術61限定出版』阿部出版 1988

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